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ペテルブルグ日記
7月24日4日目撮影
ロシアの蚊はでかい。自由に空飛ぶ蜘蛛みたいだ。
そして音も無く人体に舞い降りて襲うらしい。日本から、蚊取り線香を持ち込んだ。緑の渦巻きから立ち上る煙に、ロシア人スタッフの皆が「へーぇ?」と眉を上げ、目を見開く。
ロシア人が知らないんだから、ロシアの蚊もまんまと引っかかってボトッと落ちる。
真夏だけれど、部屋にはクーラーはいらない。木とは思えないほど大きくて重いスタジオの扉を、軽く片手で押して出入りする。皆は、「暑いっ」や「ひやー寒っ!」なんて、とても口に出したりしなさそうだ。
たとえ蚊に喰われても、叩いたりもしない。気持ちの大きい人たちなのだ。
野外に設営されたブルーのテントの休憩所。リクライニングのパイプ椅子が一つ。2日目にはその上に毛布が一枚。3日目には手を付くとガタガタする木の小さな古いテーブルが、と少しずつ楽屋になっていった。
スタッフのテントには、食事の時以外にはめったに人が居ない。大鍋が運ばれ、パンが並ぶと、皆が一緒に並んで食べ始める。
監督も、トイレを使う人のためにドアを開け閉めするだけのおばあさんも、同じ時間に隣り同士で席に着く。出演者だと思ってたら、このおばあさんはずっと扉の前に座っているだけだった。ロシアって「平等」の国なんだ。
ペテルブルグ日記3
| ペテルブルグ日記 | 12:44 | comments(0) | trackbacks(0) |
ペテルブルグ日記
7月22日撮影2日目
早朝の化粧室入りが、朝の儀式のように、落ち着いて気持ちが良い。小さな白いラジオからクラシックが流れている。
何の曲なのか解らないまま聞いているのだけれど、この国にはじめてやって来て、もう住み始めた気分になっていた。
皆は、初日に撮影した「昼寝から目を覚ますシーン」の出来具合を話しているらしい。プロデューサーのタマラさん、その他のスタッフが次々と化粧室のドアを開け、何やら声を掛けて行く。
10年あまりの年月、ソクーロフ監督の映画は公開されなかったと聞いている。メイクのジャンヌさんは18年、監督と一緒に仕事をしていると云っていた。
ジャンヌさんがメイクの手を休めずに
「すばらしいシーンだったのよ。気が付いたら、そこに居た皆が涙を流していたのよ」
「今来ている皆さんが、それぞれにイッセーさんのお芝居のこと、あなたの演技のこと云っています」
とオーリャが教えてくれた。
衣裳室に入ると、手を握ったり、肩を抱えたり、皆の顔がやわらかい。

7月23日撮影3日目
「サーシャ!!」と撮影所で声が飛ぶと、なにやら撮影所の空気がピンと張る。
微笑を浮かべて長い手足をユランユランと振って歩くサーシャが、照明のチーフさんのそばに寄る。決して大きな声を立てない現場だが、時としてこんな状態に固まる時もある。
ソクーロフ監督も親しい相手からは同じく「サーシャ」と呼ばれるらしいが、監督が呼ばれる時にはあきらかに音が違う。だから監督が、自分が呼ばれたと思って振り返ったりはしない。
「早くしろっ」と云わんばかりの呼び声の中、呼ばれたサーシャは、たいがい微笑している。止まった撮影所の中をサーシャは歩く。
シナリオのシーンの順番通りに撮影は進んでいる。なのに、どうして初日は昼寝のシーンから始めたんだろう。
後で聞くところによると、監督はこう云っていたそうだ。
「衣装合わのために数ヶ月前に会った時と比べて、イッセーの顔は驚くほど疲れていた。まるで老人の様だった。これでは当時 43歳だった天皇には見えない、と困った。けれども、この映画の中で、彼が一貫して年令通りに映っていることは無い、とすぐ撮るべきシーンを思い付いた」
だったらしい・・・。もともと当時の天皇よりも10歳年上なうえ、年間120ステージをこなすスケジュールの中からこの映画の撮影のため、30日間の日程を作り出す為に舞台公演をかなりハードに詰めていた。
だが、監督が、現場で困った様子のカケラも表したことは一度も無かった。
| ペテルブルグ日記 | 18:50 | comments(0) | trackbacks(0) |
ペテルブルグ日記
7月21日撮影初日
ヘアメイクのジャンヌとヘレンは最初、姉妹に見えた。レニフィルム撮影所は1920年代に建ち、数々のロシア映画の名作を生んだところだと聞いた。
いかにもベテランといった高齢の2人のご婦人は、この撮影所の所属だと思っていたら、ソクウロフ監督と18年間一緒に作品作りをしているのだという。
古い散髪用の椅子と鏡。 そこにイッセー尾形が座るなり、お姉さん風のジャンヌが妹さん風のヘレンさんを呼ぶ。
「ねえ、この髪ちょっとさわってよ。バリバリよ。私のハサミで切れるのかネ」
ヘレナがキャッキャッとさわる。
早朝の、真っ白なペンキのはげた木造の部屋の中で、2人のご婦人の笑い声は古いラジオから流れるオペラのアリアと交ざり合った。
女性プロデューサーのタマラは、ペテルブルグではあまり見かけない服をいつも着てる。インド風の白いロングドレスに、袖をぶった切った黒革のコート。いや、やっぱりこれがロシアンパンクなのかな。
日常の通訳オーリャをタマラは
「オリンカ!」
と厳しい声で呼びつけ、オーリャにささやく。
オーリャはあきらかにふてくされた様子で
「オガタさん。ワタシタチの誇りのお菓子を食べたい時に食べて、と紅茶を好きな時に飲んでください。それを作るのはワタシです」という。 このお菓子がマカロンというものなのかな?
「人形の家」の主人公が好きなのはこれかな。
「ワタシの名前はオーリャです。それなのにオリンカとあの人は呼ぶでしょ。それはあまり嬉しくない。まるでダメでバカな子供を叱るような言い方」
オーリャはフンと鼻で笑うけど、紅茶はちゃんと入れてくれる。
9時きっかりに始まるヘアメイクが11時に終るまで、ジャンヌとヘレンは、
「ああ、まただめだ。 ちょっとよく解らないのよ。この写真じゃネエ。 ヘレンあんたもやってみたら?」
「やだわよ。あなたの受持ちじゃなぁい。 私だって忙しいわよ。 あなたはその人1人やればいいんでしょ。しっかりやんなさいよ」
とでも言ってるんだろう。
オーリャは通訳する気はなさそうだ。
鏡の前に3枚貼られた古い雑誌のちいさな切り抜きを見ながら、ジャンヌはイッセー尾形を別人に作りあげてゆく。
タマラが呼びに来るまでは、ロシアの何処かにある女性だけのアパートにお邪魔しているようなものだ
| ペテルブルグ日記 | 20:32 | comments(0) | trackbacks(1) |
ペテルブルグ日記 

2004年の7月20日、夕焼けのロシアに降り立つ。湿原の中に水たまりが光り、そこから急に工場が建ち並ぶ釧路空港にどこか似てる。つい気を緩めて出口に向かうと、小さな木の机を隠すように制服の女性がこちらを手招きする。(それをここに置きなさい)という意味らしい。笑わぬ顔で(ケースを開けて)という身振り。指さされているのは、ヴァイオリン。もう一人笑わない男性登場。躯のでかい2人が見るからに安い楽器を覗き込む。


なにを聞かれた訳でもないのに「安い安い」とつい繰り返す。紙が差し出され「いくらなのか値段を書けここに」という意味らしい。数歩先の左右に開き閉じするとても自動には見えないドアの向こうにオーリャが見えた。4月の衣裳合わせから日常の通訳になったオーリャ22才。緩やかに氷河の流れるネヴァ河を初めて渡るとき「これはワタシタチの誇り」と教えてくれた。オーリャの説明には、「ワタシタチの誇り」がいっぱいだ。買った時の正確な値段は思い出せなくて、安いという単語も書けず、なぜ弾けと言ってくれないのか、と恨めしい。そうすればプロでもなく値打ちものでもないのが一目瞭然なのに。


20万ちょい切るヴァイオリンの値段は、この国ではどんなもんなんだろ。帰りのことが、もう不安。外に出るなりオーリャに聞くと「そうこの国では高価なものには厳しいですそれがワタシタチの誇り」ヴァイオリンを持って帰れるんだろうか。それよりなによりイッセー尾形はどうだろうか、と恐くなった夏のペテルブルグ第1日目だった。

| ペテルブルグ日記 | 19:07 | comments(0) | trackbacks(1) |
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イッセー 尾形
誕生日:2月22日
出身地:福岡
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